SAP 基幹システム Microsoft Azure 移行事例

横河電機株式会社

グローバルで利用する大規模基幹システムの「SAP on Azure」移行を最小限の影響で実行

SAP 基幹システム Microsoft Azure 移行事例 横河電機株式会社
業種 製造・ヘルスケア
導入ソリューション SAP on Azure 移行サービス
テーマ
  • DX・内製化
  • クラウド活用
  • 運用管理
製品パートナー
  • マイクロソフト
  • SAP

横河電機株式会社 デジタル戦略本部 グローバルアプリケーション・データマネジメントセンター 経営システムソリューション部 システムマネジメント課 課長
横井 聡 氏

制約を乗り越え “ ダウンタイム 10時間以内 ”&“ 業務影響ゼロ ” で移行を完遂
Microsoft Azure 活用により大幅なパフォーマンス向上と約 3割のコスト削減を実現

計測、制御、情報のコア技術を軸に、最先端の製品やソリューションで産業界と社会に貢献している横河電機。同社は、SAP ERP(ECC 6.0)をベースに構築した基幹システムを長年にわたりグローバル全体で利用していましたが、オンプレミス環境のリソース枯渇によってパフォーマンス低下が顕著になるとともに、運用基盤として用いていたサーバーや OS、データベースにもサポート切れが迫っていました。そこで基盤を丸ごと Microsoft Azure(以下、Azure)に移し替える大規模な「SAP on Azure」への移行を JBS とともに推進。短いダウンタイムへの要求、複数技術を組み合わせた移行手段への対応など多くの困難を乗り越えながら、「業務影響をゼロ」に抑えたプロジェクトを実現しました。

【会社概要】
「インターナル DX」と「エクスターナル DX」を両輪で展開

横河電機についてご紹介ください。

横河電機はグループ会社とともに、計測、制御、情報の技術を軸に最先端の製品やソリューションを提供し、産業界はもとより、豊かな人間社会の実現に貢献してきました。

そして現在は中期経営計画の下、IA2IA(Industrial Automation to Industrial Autonomy)と Smart Manufacturing を軸とした戦略的なコンサルティングとシームレスなインテグレーションを展開し、複数のシステムが有機的に接続する System of Systems が進む世界をリードする、信頼されるパートナーになることを目指しています。

具体的には「エネルギー&サステナビリティ」「マテリアル」「ライフ」の3つの事業セグメントを中心に、IT と OT が統合されたソリューションサービスを提供しています。機能アプリケーションのクラウド化やリカーリングビジネスの推進に加え、産業用クラウドアプリケーションの基盤となる「Yokogawa Cloud」を立ち上げ、Industrial IoT(IIoT)や AI、サイバーセキュリティなどのサービスを強化しています。

DX への取り組みについても教えてください。

現在、横河電機は DX を2つの方向で推進しています。1つは、社員の生産性向上を目的とした「インターナルDX」。IT 基盤のグローバル最適化を図るとともに、お客さま、パートナー、社員のそれぞれの体験価値を向上させるグローバルプラットフォーム展開を進めています。

もう 1つは、お客さまのビジネスプロセス変革を支援する「エクスターナルDX」。OT 分野で培ってきたノウハウを積極的にクラウドアプリケーション化し、モノ売りからコト売りへのビジネスモデルの転換を進めています。

これらの取り組みは社外からも高い評価をいただいており、経済産業省、東京証券取引所および独立行政法人情報処理推進機構が共同で実施する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2024」にも当社が選定されました。

【プロジェクトの背景】
基幹システムの運用基盤の EOS とデータ量の増加への対応が急務に

基幹システムのクラウド移行が求められた背景を教えてください。

当社が運用してきた SAP ERP(ECC 6.0)には大きく 2つの課題がありました。1つ目は、システムのパフォーマンス低下です。ECC 6.0 は 2008年からグローバル展開を進めてきた経緯があり、ワンインスタンスで全世界 45カ国 69社が利用する大規模な基幹システムの基盤となっています。それがゆえに年々増大していくデータ量によってデータベースが肥大化し、パフォーマンスに影響を与えていました。随時アプリケーション改修などの対処は行っていたものの、オンプレミスで運用していた仮想基盤の物理リソースが枯渇してしまい、さらなる拡張は困難な状況でした。

2つ目は、ECC 6.0 の運用基盤として用いていたサーバーや OS、データベースの EOS(サポート終了)です。実は当社では 2027年12月31日に迫った ECC 6.0 自体の EOS を見越し、SAP S/4HANA をベースとした次期基幹システムの構築プロジェクトをすでに始動しています。そうした中で今さらオンプレミス環境を更新するという選択肢はなく、短期間で新たな基盤への移行を実現する必要がありました。

移行先に Azure を選んだことにはどんな期待があったのですか。

マイクロソフトが自社のグローバルでの巨大な基幹システムをAzure上で運用していることを聞き、信頼性やパフォーマンスに対する安心感がありました。

また、SAP S/4HANA をベースとした次期基幹システムの構築プロジェクトも Azure を基盤とした「SAP on Azure」で進めています。この最終目標を考慮したとき、現行の基幹システムの移行先も同じ Azure を選択することが最適と判断しました。

【JBS 選定の経緯】
SAP 製品とマイクロソフト製品の幅広い技術力と豊富な実績を評価

今回の Azure 移行のパートナーに JBS を選定した理由を教えてください。

JBS は以前からさまざまなプロジェクトをともに進めてきた実績があり、当社の業務を熟知している点で信頼感がありました。そうした中では、SAP 以外のマイクロソフト製品を主体とした大規模システムのクラウド移行もしっかりやり遂げていただいており、非常に幅広い高い技術力と知見を有しているという認識を持っていました。

【プロジェクトのプロセス】
ダウンタイム 10時間以内という制限の中で複数技術を組み合わせた移行方式を採用

Azure 移行プロジェクトはどのようなスケジュールで進められたのですか。また、プロジェクトの中で苦労した点もあれば教えてください。

横河電機株式会社 デジタル戦略本部 グローバルアプリケーション・データマネジメントセンター 経営システムソリューション部 システムマネジメント課 課長 横井 聡 氏

横河電機株式会社 デジタル戦略本部 グローバルアプリケーション・データマネジメントセンター 経営システムソリューション部 システムマネジメント課 課長
横井 聡 氏

2022年10月に移行検討を開始し、2023年1月より移行計画・設計に着手し、2023年4月に移行を実施するという大きく 3つのステップで進めてきました。

最大の懸念となったのは、Azure 移行に際して許容できるダウンタイムの短さです。先にも述べたとおり、グループ会社を含めた世界 45カ国の 1万7000人以上の社員が利用する大規模な基幹システムをワンインスタンスで運用している基盤だけに、長時間にわたって停止することはできません。

そこで JBS には 10時間以内に移行を完了することをお願いしました。これは万一、移行に失敗した際にオンプレミスに切り戻す作業も含んだ時間です。

さらに移行作業そのものにも困難が生じました。当初は現行のシステムイメージをそのままコピーする「Azure Migrate」という移行ツールを全面的に利用することを想定していましたが、この技術は共有ディスクやクラスタ構成をサポートしていないことが明らかになりました。そこで JBS からの提案を受け、Azure Migrate で対象システムの移行を行った後で、Azure Migrate がサポートしていない共有ディスククラスタ部分を再構成し、SAP のアプリケーションは SAP の「システムコピー」という技術で適応させるという複数技術を組み合わせた移行方式を採用することになりました。

また、切り替え当日の作業ではダウンタイムを抑えるため、事前に現行機と移行先環境のデータを同期させておくことでデータ移行にかかる時間を最小化し、当日は接続先の切り替えのみを行う方式を採用しました。

このように JBS には無理難題での対応をお願いすることになりましたが、私たちの要望に応えてしっかり移行を完遂してくれました。

切り替え当日作業
  • 現行機のサービス停止及び、Log 配布による最終同期を行う
  • データ切り替え後、Azure 上の新システムで Always On 可用性データベースを作成する
  • DNS 等の切り替え作業を実施する
  • 切り替え当日作業

    Azure と SAP に対する専門的な知識を活用した移行を完遂

  • 【導入効果】
    基幹システム全体のパフォーマンスが劇的に向上し、コスト削減も実現

    問題なく移行作業は完了したのでしょうか。

    ダウンタイム 10時間以内という私たちの要求をしっかり満たしたうえで、移行後の業務影響もゼロです。私の経験上でも、これほど大規模なシステムの移行プロジェクトで、まったく問題が起こらなかったケースは他にありません。あまりにも上手くいきすぎて、何か見落としているのではないかと、逆に不安を感じるほどでした。

    なお、今回の Azure 移行プロジェクトの成功はデジタル戦略本部の上層部からも高く評価され、社内表彰をいただくことができました。

    基幹システムが Azure 上に移ったことでどんな効果が得られましたか。

    基幹システム全体のパフォーマンスが劇的に向上しました。SAP のパフォーマンス統計を見ても、平均レスポンスタイムは、移行前と比べてほぼ半減しています。実際、グローバルのユーザーからの問い合わせやクレームは激減しています。

    また、オンプレミス環境で運用していたハードウェアの維持費も重い負担となっていましたが、Azure の利用料に変わったことで、3割程度のコスト削減を実現しています。

    【今後の展望】
    今まで以上に信頼性の高いグローバルワンインスタンスの基盤を実現

    今後に向けた計画や構想をお聞かせください。

    前述したとおり、当社では SAP S/4HANA をベースとした次期基幹システムの構築プロジェクトを並行して進めています。

    こちらのプロジェクトにも JBS に参加していただいており、今まで以上に信頼性の高いグローバルワンインスタンスの基盤を実現すべく、引き続きワンチームの体制でシステム構築およびユーザーの移行に臨みたいと考えています。

    【JBS への評価】
    不確定要素も多い中での伴走を高く評価

    あらためて JBS の導入支援・サポート体制に対する評価をお聞かせください。

    Azure をはじめとするマイクロソフト製品と SAP 製品を組み合わせた広範な技術サポートに加え、短いダウンタイムへの要求、複数技術を組み合わせた移行手段への対応など、不確定要素も多かった今回のプロジェクトにおいて、JBS の伴走は不可欠でした。

    実は途中で私が身体を壊してしまい、1か月近く入院して不在となった期間もあったのですが、そんな中でも JBS はプロジェクトを着々と進め、スケジュール遅延を起こすこともなく移行を完遂してくれました。JBS をパートナーに選んだからこそ互いに緊密な意思疎通を図り、成功に至ることができたと感謝しています。

    集合写真

    日本マイクロソフト担当者からのコメント

    オンプレミス環境の SAP システムを Azure 上へ移行するというのは、単純な「移動」という作業に留まりません。Azure 環境上で稼働するベストな形に「最適化」が必要になり、そこに至るためには様々な技術的な制約に遭遇します。本プロジェクトにおいてもそれは同様で、弊社からも回避策の検討をお願いする場面があったと記憶しております。それらの困難に対して JBS さまの詳細な技術分析、対応策の綿密な検討など粘り強い対応、卓越した技術力で取り組まれた成果が素晴らしい結果に繋がったと思います。技術的なサポートをさせていただきましたが、そのやりとりにおいては、ご多忙の中にも関わらず多くの資料の提供や作成、ディスカッション時間を割いていただくなど真摯に対応していただきました。
    JBS さまにおいては、進行中の SAP S/4HANA 移行プロジェクトにも参加されておりますので、引き続き弊社がご用意している様々な支援を最大限活用いただきながら、着実なプロジェクトの遂行を期待しております。

    日本マイクロソフト株式会社
    カスタマーサクセス事業本部 エンタープライズアーキテクト統括本部 SAPクラウドアーキテクトグループ クラウドソリューションアーキテクト
    藤本 淳也 氏

    JBS 担当者からのコメント

    製造・流通事業本部 製造流通3部  蜂須賀 将善

    スケジュール制約や技術的要素などにより難易度の高いプロジェクトでしたが、横井さまの人間性やリーダーシップのおかげで、両社ワンチームとなり推進できたことが成功の大きな要因であったと思います。今後も横河電機さまの DX 及び中期経営計画の実現に少しでも寄与できるよう努めていきます。

    製造・流通事業本部 製造流通3部
    蜂須賀 将善

    クラウドソリューション事業本部 プロジェクトマネジメント部 3グループ 谷戸 洋二

    横井さまと JBS のプロジェクトチームが課題に対して、一丸となって対応できたことが今回の成功につながったと感じております。このプロジェクトの成功はどんな些細なことでも両社で共有し、役割を分担し、個々の能力を最大限に発揮できたことです。改めて、横井さまとプロジェクトメンバーに感謝いたします。

    クラウドソリューション事業本部 プロジェクトマネジメント部 3グループ
    谷戸 洋二

    クラウドソリューション事業本部 ハイブリッドクラウド3部 3グループ 丸古 銀次

    移行要件やスケジュール制約など難易度の高い移行プロジェクトでしたが、横井さまの高い技術力やご協力のおかげで無事に完遂することができたと思います。改めて、横井さま含むプロジェクトに携わった方々に深く感謝申し上げます。
    今後は、このプロジェクトでの経験やノウハウを生かして、今後も横河電機さまをご支援できるよう尽力してまいります。

    クラウドソリューション事業本部 ハイブリッドクラウド3部 3グループ
    丸古 銀次

    SAPソリューション事業本部 SAPプラットフォーム部 奥津 宏之

    企業の根幹を担う基幹システムの移行は、“ いかに影響を出さないか ” が問われますが、これだけの規模のシステムでそれが実現できるか当初不安もありました。技術的な制約や不確定要素もありましたが、横井さまをはじめとするプロジェクトチームで知恵を出し合い、進め方についてのご理解とご協力をいただけたからこそ実現できたプロジェクトだと思います。チームの皆さまのご協力に心から感謝申し上げます。

    SAPソリューション事業本部 SAPプラットフォーム部
    奥津 宏之

    横河電機株式会社

    代表者:取締役 代表執行役社長 奈良 寿
    本社所在地:東京都武蔵野市中町2-9-32
    設立:1915年 9月1日
    資本金:434億105万円
    従業員数:17,365人(連結)
    事業概要:「エネルギー&サステナビリティ」「マテリアル」「ライフ」の3つの業種別セグメントで事業を展開

    2024.08.28公開

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