グループチャットによる情報共有やアジャイル型プロセスで開発工程を大幅短縮。
短期間に、業務を具現化するビジネスアプリケーションを構築。
日本ビジネスシステムズ株式会社では、Microsoft Dynamics 365(以下、Dynamics 365)上で社内業務を効率化するためのビジネスアプリケーションを展開しています。本事例では、Dynamics 365 の基本機能のみで実装し、短期間にビジネスアプリケーションを実装した社内開発例を振り返るとともに、Dynamics 365 で実装しているビジネスアプリケーションについても紹介します。
【システム概要】
タスクベースでライセンス情報を管理するビジネスアプリケーションを Dynamics 365 上に実装
(左より)日本ビジネスシステムズ株式会社 事業企画
本部 MS統合サポートセンター 十川 洋平、
ビジネスソリューション本部 CRMソリューション部
髙橋 野乃佳、同本部同部 吉川 めぐみ
今回、Dynamics 365 で開発したビジネスアプリケーションについて教えてください。
お客様が当社から購入されたソフトウェアライセンスの契約更新業務についてタスクベースで管理できるビジネスアプリケーションを、Dynamics 365 の CRM 機能上に構築しました。
単なるライセンス情報の台帳データベースにとどまらず、個々のお客様への対応履歴や ToDo までを総合的に管理するシステムとなっています。
具体的にはどのような機能が実装されているのでしょうか。
ライセンスごとで異なる年次のタスクなどを自動で作成したり、それぞれのステージで期限を表示したりすることで、漏れなく適切なタイミングでお客様へライセンスの更新を促したり、アプリケーションベンダーへのレポーティングなどを行ったりするための機能を実装しています。
ベースエンティティ:契約情報 |
機能名 |
概要 |
ライセンス基本情報管理 |
ライセンス契約の契約番号、応当日、契約年数など各契約固有の情報の管理。アップセル率などいくつかの計算が必要な項目は自動計算。 |
表示項目の制御 |
ライセンスの種類によって自動的に入力項目・必須項目を変更。 |
ライセンスにかかわる情報の管理 |
ライセンス契約のベースとなる基本契約番号に専用テーブルを作成し、契約情報に紐づけて管理。 |
契約年次ごとのタスク自動生成 |
ライセンスの種類・契約期間によって自動的に各年次で必要なタスクを生成し、契約の管理画面で確認。 |
ライセンス契約企業管理 |
契約に関わる企業を契約企業、取引先企業、契約利用関連企業に分けて管理。複雑な企業間の関連の判読性を向上。 |
関連ライセンス契約管理 |
ライセンスの親契約、更新先/更新元・集約先/集約元などライセンス間の関わりを 5つの方法で表現。 |
Online Service 条件の自動表示 |
管理番号からひも付けたバージョン情報をもとに、オンラインサービスの条件の有無を自動的に表示。 |
契約証の添付 |
メッセージ付きで契約証をライセンス契約の管理ページ上に保存。 |
ToDo リスト |
契約そのものに関連する ToDo・ToDo 対応履歴を管理。 |
ベースエンティティ:契約タスク |
機能名 |
概要 |
タスク別フロー表示 |
タスクごとに異なった業務フローを表示し、各段階でするべきことを可視化。完了マークを付与できることで処理済かどうかを確認。 |
ステージの期日の表示 |
業務フローのステージごとに、開始日・終了日を自動的に契約応当日から計算し表示。年次/更新で期限日が異なるケースにも対応。また終了日からの遅延日数を自動で計算するため、遅延および更なる遅延の防止につなげる。 |
期限日までの日数自動計算 |
契約の期限およびベンダーの指定する期限までの日数を自動的に計算し、遅延を防止。 |
表示項目変更 |
フローごとに異なる管理画面に必要な項目の表示/非表示を自動で切り替え。 |
タスクに関する ToDo のリスト |
タスクごとでの ToDo・NextAction を記入。その年度のみの連絡事項などを管理。 |
現在のステージ表示 |
進捗状況を詳細画面および、タスクの一覧画面で確認。 |
【導入背景】
一元的かつ効率的に、急増するライセンス情報を管理する仕組みが必要
Dynamics 365に実装しているライセンス管理システム
の画面例
これまでは、どのように顧客のライセンス情報を管理してきたのでしょうか。
ライセンス管理の担当者側では、Microsoft SharePoint Online に情報を登録し、いわゆる台帳的な管理をしており、アプリケーションベンダーへのレポーティングやベンダーからの問い合わせの受付は、ライセンス管理の担当者が窓口となっていました。また、営業担当者から問い合わせを受けて情報を提供したり、場合によっては営業担当者に対応を促すこともありました。
各営業担当者は担当顧客のライセンス情報を把握していましたが、体系的に管理する仕組みなどは設けておらず、各個人の裁量に任せているという状況でした。
ライセンス管理のシステムを刷新したねらいを教えてください。
ライセンス体系が複雑で、製品や契約形態によりライセンス更新や延長のタイミングはばらばらで、過去の履歴も含めて管理する案件数が週百件となり、ライセンス管理の担当者への負担が急増していました。
また、ライセンス情報の取り扱いが営業担当者の負担となるようなケースも見られるようになってきました。
そのような状況が続くとネガティブな発想をすれば、ライセンス更新のタイミングが遅くなると顧客側でも予算の確保に手間取ることもありますし、当社のライバル企業に顧客を奪われてしまうことにもつながりかねません。
お客様に適切なタイミングでライセンス契約の更新と継続を促す業務を、営業担当者による管理に依存するのではなく、プロセス管理の視点からビジネスロジックをシステム化して、一元的かつ効率的にライセンス情報を管理する仕組みが必要だと考え、新たにライセンス管理システムを構築することにしました。
【選定理由】
ノンコーディングで短期間にアプリケーションを実装できるシステムインフラとして Dynamics 365 を採用
日本ビジネスシステムズ株式会社
事業企画本部 MS 統合サポートセンター
十川 洋平
Dynamics 365 を採用した理由を教えてください。
Dynamics 365 は、当社内においてもさまざまな場面で利用されており、ノンコーディングでカスタマイズが可能なので、短期間に最小限のリソースで実務に合わせた機能を実装できます。開発コストも抑えることができると同時に、機能拡張も容易であることから採用を決めました。
また、Dynamics 365 はデータの連携が容易で、既存の顧客データベースはもちろん、Microsoft Excel の表データなども簡単に取り込み、実装されているCRM の機能を使って管理できるので、今回のようにライセンスを業務プロセスに合わせて管理するビジネスアプリケーションを開発するのには最適なアプリケーションプラットフォームでした。
ノンコーディングだと業務を再現できなかったり、機能に制限が発生したりしないのでしょうか。
プログラムコードをコーディングせずに開発することで、アジャイル型での開発が容易となります。わかりやすく言えば、プロトタイプをその場で操作しながら画面や機能を追加・変更することができるので、仮に標準機能だけでは実装が難しい機能があったとしても、考え方や手順を変えて同様の機能を実現したり、運用や手作業でカバーするといった判断ができます。
すべて理想とする業務モデルを再現しようと思えば、“制限” になるのかもしれませんが、その機能の実装にかかる時間やコスト、業務へのインパクト、さらには機能自体の優先順位などを見極めれば、“仕様” として捉えることができます。今回は、時間と手間をかけて理想的な業務モデルを緻密に再現するよりも、時間とコストをかけずにシステムをリリースすることを優先しました。早く新システムを使い始めることができれば、その分早く効果を享受できます。システムの改編や機能追加は継続して対応していきますので、現時点で実装を断念した機能があっても、使いながらより優れたシステムへと成長させていくというのが基本的な考え方となります。
日本ビジネスシステムズ株式会社
ビジネスソリューション本部 CRM ソリューション部
吉川 めぐみ
システムを開発しながら仕様を変更するのであれば、仕様と機能がかい離したり、矛盾してしまったりするようなことはなかったのでしょうか。
事前にいわゆる仕様書といったものは準備せず、実現したい業務の流れやアウトプットを「こういう画面にしてほしい」「こういう機能を実装してほしい」という要望を伝え、プロトタイプを操作してみて、また変更や要望を伝え、実装してもらうという繰り返しで開発を進めていきました。このように説明すると行き当たりばったりで開発を進めていると思われる方もいるかもしれませんが、仕様を決めたりアイデアをまとめたりするのは基本的にMicrosoft Teams(チームコラボレーションツール) 上で行っています。
そのため、言った言わないといった無駄な議論も発生しませんし、文字要素だけでなく画像やメモなども使って意見交換や情報共有を進められ、最新の仕様だけでなくそれまでの経緯を途中からプロジェクトに参加したメンバーがいたとしても容易に確認できます。そのため、仕様と機能のかい離や矛盾は発生しませんでした。また、Teams 上では特定の担当者だけでなく、社内の他のメンバーのさまざまなアイデアやノウハウも集約することができるので、問題や課題が発生してもスムーズに乗り越えることができました。
【効果】
複雑な業務プロセスを 1人のエンジニアが約 2か月間で実装
機能の実装には、実際、どのくらいの期間と開発リソースが必要だったのでしょうか。
開発をメインで担当したエンジニアは 1人で、開発期間は約 2か月間となります。ただし、担当エンジニアは Dynamics 365 での開発経験はほとんどなかったので、経験のあるエンジニアが技術面でサポートしまし
た。
ライセンス管理システムの導入効果について教えてください。
機能面では、これまで人が管理していた業務をタスク化し、業務プロセスの自動化も進めることができましたので、ミスや漏れがなくなり、また営業担当者の負荷も最小限に抑えながら、質の高いライセンス販売業務環境を実現することができました。
また、既に SFA として利用していた Dynamics 365 に顧客に関する情報を集約したことによって、ライセンス管理の担当者だけでなく営業担当者など部門をまたいだ情報を一元管理できるようになり、データやタスクへと容易にアクセスできる環境を実現することができました。全社でお客様の対応の品質を向上させることも狙いのひとつです。
日本ビジネスシステムズ株式会社
ビジネスソリューション本部 CRM ソリューション部
髙橋 野乃佳
開発時に苦労したことはありましたか。
ライセンスの担当者が管理しやすいシステムにするのはもちろんのこと、主に営業など、既に Dynamics 365 を利用してきたユーザーにとってもライセンス管理機能が付加価値となるように、情報管理の仕
組みはかなり工夫しました。
また、お客様の案件であればプロジェクトマネージャーなどが、全体の業務プロセスを把握して取りまとめるのですが、今回は社内案件ということで、パーツ間の連携や全体の流れはユーザー側に管理してもらい、開発側は個別のパーツごとの開発と既存機能との整合性の担保に集中できました。
パーツ間を疎結合な関係にすることで、個々の修正や追加による影響を最小限に抑えることができました。また、仕様変更が発生しても大きな手戻りは発生せずに済みました。あらためてパーツ間の独立性を保つことが重要であり、柔軟かつ迅速に開発を進めることにつながるということを再認識しました。
アプリケーション間の連携が容易なので、Dynamics 365 で開発したアプリケーションを 1つのパーツとして捉えれば、複数のアプリケーションを連携させながら大規模なシステムへと発展させることができると捉えています。